患者の生死に関わる看護師の体験談
Aさんの体験談
ICUに勤務するAさんの体験談です。交通事故で運ばれてきた4歳の女の子を受け持つことになったAさん。その子は長い不妊治療を経たうえでやっと授かった子どもだったのですが、事故に遭って脳死状態になってしまいました。父親は遠方に単身赴任中だったため、その子の母親が毎日病院に泊まり込んでいました。脳死の状態は続きましたが、在宅での医療的ケア体制が整ったこともあり、入院から2年後に自宅退院する運びとなりました。ところが、自宅退院してから2週間も経たないうちに再び入院することになったのです。原因は、膀胱内留置カテーテルによって起こった尿路感染症です。懸命に治療にあたりましたが、その子は亡くなってしまいました。Aさんが死後処置を行いましたが、その際に呆然となって動けなくなっている母親の姿を見て非常につらい気持ちになりました。
急性期に属するICUでは、このように患者の死に立ち会う機会が多いです。ですが、Aさんは常々上司から「人の死に慣れてはいけない」と言われてきました。死と向き合う機会が多いからこそ、生涯の最期に責任をもって立ち会える立派な看護師にならなければと思い、仕事に取り組む日々だと言います。多忙を極める環境のため、退職者が多く新人がなかなか育たないなどの苦労もあります。人手不足になれば業務負担が増加し、普段の生活に悪影響を及ぼします。しかし、無事回復して退院する患者の姿を見たときや、直接感謝の言葉をもらったときはとても大きなやりがいを感じ、仕事のモチベーションが上がるとAさんは言います。
Bさんの体験談
働き始めて10年ほどの中堅看護師であるBさんの体験談です。これまで様々な経験を積んできたBさんですが、初めて患者の死と向き合ったのは看護師1年目のときだったそうです。最初に配属された呼吸器内科に入院してきたのは、特発性肺線維症を患う60代の女性でした。実はこの女性、昔は看護師として活躍されていた方でした。まだまだ経験の浅いBさんを放っておけなかったのか、看護ケアを実施するたびに「指導」が入ったそうです。最初は煩わしく感じていたBさんでしたが、知識も経験も浅い自分に毎回熱心に教えてくれる姿を見て、すぐにネガティブな感情は消えたと言います。その女性のためになんとか力になりたいと思いましたが、治療法がなくすでに予後が厳しい状態であり、何もできない自分に歯がゆさを感じました。
その後、女性は小康状態に落ち着き一度退院しました。しかし数か月後、電子カルテの救急患者一覧にその女性の名前を発見し、再び入院していることを知りました。そのときBさんは別の科におり、また、自分が行ったところで何もできないだろうと思い、足を運ぶのをためらったそうです。数日後、気になって再びカルテを見たところ、前日に亡くなっていたことが分かりました。Bさんはそこで「なぜあのとき行かなかったのか」と強い後悔に襲われました。この経験があってから、Bさんは気になる患者の病室には可能な限り足を運ぶようにしているとのことです。